福岡県芦屋町で芦屋釜の制作・修復を手がける鋳物師・樋口陽介さんが工房「蘆屋(あしや)鋳物 陽(よう)」を構えて、4月1日で5周年を迎えた。
樋口さんは、芦屋町で16年間の修業期間を経て2021年に独立。芦屋釜の里(芦屋町山鹿)内に工房を構えた。独立時はコロナ禍と重なり、人の往来が制限される中での船出となった。「人も動けない、注文を取りにも行けない。綱渡りの日々だった 」と振り返る。
工房では茶の湯釜 の制作・修理、復原制作、スズ製酒器などの制作に取り組む。茶道具に限らず、茶道に親しみのない人や飲食店にも鋳物の魅力を届けようと、湯沸かし用の鉄製品や酒器なども展開している。
過去には、九州国立博物館所蔵 重要文化財の芦屋釜復原製作を手がけた。樋口さんよると、室町時代の釜と風炉(ふろ)を復元する仕事で、約半年かけて一人で制作したという。
現在は、釜を持ち上げる為に使う鐶(かん)から着想を得た取り外し可能な持ち手の沸かし道具も制作。意匠登録を取得し、素材には芦屋釜と同様に島根県奥出雲のたたら製鉄由来の和鉄を使う。作品によっては半年以上待つ注文もあるという。
地域に向けた活動にも力を入れ、町内の小学生を対象にした卒業制作ワークショップでは、鋳物の技術を使った印鑑作りを行う。子どもたちは金文(きんぶん)などを調べ、自分の印に取り入れながら、鋳物や地域の文化に触れる。
樋口さんは「自分を知ってもらうことだけに特化すると、結局、何も残らない。芦屋釜やこの産地を知ってもらうことが一番の目的」と話す。今後は「風鈴や釣鐘など音に関わる鋳物にも取り組みながら、芦屋町に鋳物の産業を残していきたい」とも。